2010-01-05

Windows のカラーマネジメント問題

Windows Vista 以降、WCS (Windows Color System) と呼ばれる機能が追加され、Windows 環境下のカラーマネジメントがより簡単になったと聴いていましたが、WCS自身にWindowsのエクスプローラ(デスクトップ)が未対応だったり、WCS対応ソフトがほぼ皆無ということで、実際のところ何も利用者に利便性などを生み出していませんでした。
Windows 7になって、それらの点が改善されていると思い調べると、実のところ何も変化していない。
まさかと思って、Microsoft Japan のフォーラムで質問してみましたが、担当の人は WCS どころかカラーマネジメントすらほとんど(いや、さっぱり)わかっていない様子で、マイクロソフト提供のホワイトペーパーなどの資料をもらいましたが、それは WCS についての説明。質問の回答とはかけ離れたものでした。

●色空間と広色域モニタとは
カメラを利用していると、AdobeRGB や sRGB と呼ばれる色空間(カラースペース)に接することになります。これは印刷業界では当たり前のことで、印刷に使用するインクで出せる色と、コンピュータディスプレイや、テレビで表示される色とは違うため、それぞれの違いを、表現できる色の種類(=色空間)で定義したものです。

色鉛筆のセットで考えてみてください。
仮に、プリンタで使用できる色鉛筆は16色セット(16色の色空間)、sRGBの色鉛筆は256色セット(256色の色空間)、AdobeRGBの色鉛筆は1024色セット(1024色の色空間)と考えるとイメージが掴めると思います。

imgAdobeRGB は、sRGB では表現できない濃い赤色や、濃い緑色など、sRGB で表現できる色に加えて、より多数の色を表現できます。普通のパソコン用モニタは、この sRGB という色空間で定義された色までなら、だいたい表示できます。一方で、AdobeRGB 色空間を表示できるモニタは、sRGB よりも多くの色が定義された広い空間が表示できるという意味から「広色域モニタ」と呼びます。

デジタルカメラで生成される写真データは、sRGB が普通です。高級機になると、AdobeRGB などの広色域の写真を生成することができます。見比べればすぐに判るほど、AdobeRGB の写真は色が鮮やかで、色が豊かです。
そのため、せっかくなら AdobeRGB で写真を撮りたいのですが、残念ながら、AdobeRGB の豊富な色を見ることができるのは、AdobeRGB に対応する広色域モニタに限られます。

そこで、熱心なカメラファンやフォトデザイナーは、AdobeRGB に対応した広色域モニタを利用しているのです。

●カラーマネジメントとは
プリンタで印刷すると、パソコンモニタで見たものより、地味になったり、色味が変わったりします。これは、紙に印刷できる色の数が、パソコンモニタよりも圧倒的に少ないためです。
前述の、色鉛筆セットを思い出してください。256色の色鉛筆で描いたものを、16色の色鉛筆で描けば、当然使えない色があるので色味が変わってしまいます。多くの色を使ったものを、少ない色しか使えないもので表現しようにも、無理があるのです。

このように、出力するデバイス(プリンタ、sRGBモニタ、広色域モニタなど)によって、使える色の数が違う問題が生じます。この問題を解決するために考えられたものが、「カラーマネジメント(色管理)」なのです。

カラーマネジメントでは、まずデバイスごとに使える色空間を定義しています。例えば、「このプリンタでは、16色が使えるよ」「このモニタは、sRGBの256色が使えるよ」といった情報で、デバイスそれぞれに定義されています。これを、デバイス・カラー・プロファイル(あるいは、単にデバイス・プロファイル)と呼び、Windowsでは昔から「ICC プロファイル」という国際的に決められたルールで作られています。

そして、このデバイスプロファイルを基に、デバイスごとの色の違いを、認識して、色の違いをなるべく無くすための努力が「カラーマネジメント」の一番の役割です。

一方の色鉛筆セットでは赤色があるのに、別の色鉛筆セットでは赤色がないとき、より赤色に近い別の持っている色を「代用」して使うといった手法で、カラーマネジメントは行われます。
私たちが使っているモニタそれぞれでも、実は微妙に、それぞれで使用できる色が違っていたりしているのです。また、色は環境光にも大きく影響を受けていて、喫茶店の電球の下で見る色と、太陽の下で見る色がまったく違うように、様々な状況を考慮して、カラーマネジメントは行われるのです。

●カラーマネジメントしないWindows
美しい朱色だと思って色を塗って描いたイラスト。他人のパソコンで見ると、まったく別の色に見えたりしませんか?
カラーマネジメントが行われないと、色は見る人(厳密には出力するデバイス)ごとに、バラバラです。印刷業界で昔から使われているMacでは、カラーマネジメントを厳密かつ徹底して行っており、きちんと設定すれば完璧に動作します。
もし、カラーマネジメントがきちんとされないと、フォトグラファーが出稿した写真を、写真集などに印刷する時、元になった写真と、出来上がった写真集の色がまったく違ってしまって、大クレームになってしまいます。

Windowsでも、適切な設定をすることができるソフトであれば…。
ストレートに言えば、対応ソフトであれば、Macと同じように完璧にカラーマネジメントすることができます。この「対応ソフトであれば」というのがキーポイントで、WindowsではOSそのもののカラーマネジメントが不可能なので、完璧にカラーマネジメントについて考慮されたソフトでなければ、意味がないのです。

imgAdobeRGB の広色域モニタでWindowsを起動すると、いきなりアイコンや壁紙が「ど派手」です。(^^;
信じられないかもしれませんが、Windows色システムの既定のデバイスプロファイルを、使用しているモニタの色空間にしたところで、Windowsデスクトップを管理するエクスプローラ自体がまず対応していないため、sRGB で作られたアイコンや壁紙などが、AdobeRGBの色空間座標で表示されるため、ど派手になるのです。

また、Internet Explorer なども、「100%あらゆる色空間を無視する仕様」になっているため、もともと sRGB でデザインされたウェブサイトのイラストや写真は AdobeRGB として処理されて「ど派手」になります。たとえ、表示するウェブサイトの写真に、ICCプロファイルが埋め込まれていたとしても、「完全に無視」されます。
(※現在は、Firefox 3 と Safari のみカラーマネジメントに対応しています)
Adobe Flash Player なども当然「ど派手」になります。

これらは、アイコンや壁紙、Internet Explorer や Flash Player などのソフトが問題なのではなく、OS そのものの既定のカラープロファイルがどう処理されているかが問題です。sRGB が基本の世界ですので、OS としては当然プロファイルがないものについては、sRGBとして解釈するべきなのです。
そして、利用しているモニタが AdobeRGB などの広色域モニタであれば、sRGB と AdobeRGB の変換(カラーマネジメント)をしてから、モニタに表示するべきなのです。


写真を加工するための Adobe Photoshop などは当然カラーマネジメントについて高度な管理が行えます。しかし、オフィスソフトや、音楽ソフトなど、その他の画像とは関係ないソフトがカラーマネジメントについて考慮することはまずありえません。であれば、基準の色空間である sRGB の前提で、それらについてはOSが措置するべきです。

長くなりましたが、これがいわゆる Windows のカラーマネジメント問題です。
この問題は、Windows7 になってもまったく解決していません。高性能デジタルカメラや、広色域モニタがどんどん普及価格になって利用されつつあるこの時代に、この状態は時代錯誤というか、マイクロソフトには「デザイン」というか、美的感覚のある人間がいないんだろうと思わざるをえません。
賢明なフォトグラファーであれば、Windowsではなく、Macを選ぶでしょう。