去年末あたり、実は昔使ったニコンのフイルムカメラが懐かしくてフルマニュアル・フイルムカメラの現行だった、ニコン FM3A というものを買おうかと画策していた。(結局は、デジタルカメラのニコン D200 を買ったわけだが…) そして、今年こそはと考えていたところ、1月になってニコンのフイルム事業の大幅縮小、そして立て続けにコニカ・ミノルタのカメラ事業撤退というカメラに携わる人にショッキングなニュースが流れた。この煽りで、欲しかった FM3A はディスコン(discontinued)され、今や新品は皆無で、ある意味普通に新品を買う道が閉ざされてしまった。少なからず、自分にも影響があったこれらのニュースは、日本のみならず、世界のほぼ9割のカメラ市場シェアが日本製ということもあって、世界でもトップニュースとして報道された。
この話題は特段、カメラに携わる人たちだけの事でなく、普段目にする新聞や雑誌に掲載されているあらゆる写真の根本的なブレイクスルーが巻き起こった結果を示しているものだ。ビジネスシーンでは、今でも広告写真や建築写真では昔ながらのポジフイルムが主流だが、報道写真やスポーツ写真はほとんどデジタル。ちょっと前までなら、ドラマや映画などでは暗室の中、フイルムを現像しているような描写があったが、これからはただのパソコンになってしまう。電話ボックスで電話をかけている描写に違和感を覚えるような日常の変遷の一端がここにもあるわけだ。
(新聞報道)———世界に誇る日本のカメラ業界が揺れている。今月相次いで発表された、ニコンのフィルムカメラ事業縮小と、コニカミノルタホールディングスのカメラ、フィルム事業からの完全撤退。デジタル全盛の「時代の流れ」とはいうものの、愛好家らの間で波紋が広がっている。【根本太一】
東京・池袋のビックカメラ「カメラ専門館」。ニコンがフィルムカメラの一眼レフ8機種のうち6機種の生産中止を発表したのを受け、フィルムカメラの特別コーナーを設けた。「8万円、10万円の機種が入荷と同時にほぼ完売します」と語るのは店長代理の野村憲広さん。付属品も系列店から集めては並べるが、マニアの駆け込み需要が続いている。
コニカミノルタ製品でも、専用レンズ6本(約60万円)をまとめ買いした中年男性がいたという。「週末は客足がさらに増すでしょう」と話す野村さん。老舗メーカーの撤退だけに「素直に喜べない」と残念がる。
戦後、その性能を世界に認められたニコンは、英語で「ナイコン(Nikon)」と発音され、70年代にポール・サイモンが「僕のコダクローム」で「ナイコンのカメラを手に入れたんだ」と歌ったほど親しまれた。
しかし、国内メーカーの出荷台数はここ数年で激減した。カメラ映像機器工業会によると、昨年1〜11月は約515万台。同期のデジタルカメラは約5913万台に達した。
数多くの有名写真家を輩出した日本大学芸術学部写真学科にも、今やデジタル専門のゼミがある。1年生は基礎としてフィルム現像やプリントを学ぶが、最近はデジタルカメラしか持っていない新入生が多く、ニコンの事業縮小は頭の痛いところだ。生産が続くのは30万円近くもするプロ仕様と、入門機。学生が使う中級機は品薄になるため、大学側は貸し出し用のフィルムカメラの大量購入も検討し始めた。———(毎日新聞 2006年1月28日)